【書評】直木賞受賞作「蜜蜂と遠雷」を読んでみたよ。
素晴らしい一冊でした。2016年度、小説で自分の中では間違いなくナンバー1。
僕は司書教諭の方に借りたのですが、分厚さに閉口して、kindleで買い直しました。そのときフェアー中で実質700円でした。
若手の登竜門とされる日本開催のコンクールに、日系の天才青年、若き日に音楽から離れた伝説の少女、そして弟子を取らないと言われた音楽家が亡くなる前にこのコンクールに送り込んだ天才的な少年。3人が中心となってコンクールの様子が描かれています。
音楽をあまり知らない自分であっても、その心情の描写、ストーリーの展開にすっかり惹きこまれてしまいました。クラシックを聴いてみたくなる、音楽とともに生きたくなる…そんな一冊です。
- 音楽は素晴らしい、あたしは音楽に一生関わっていくのだとうそぶきながらも、実際にやっていることはその逆だった。音楽に甘え、音楽を舐め切り、ぬるま湯のような音楽に浸かっていた。ここにいれば楽だとばかりに、音楽と馴れ合っていたのだ。自分は違うと思いながら、音楽を楽しむことすらしていなかった。 考えれば考えるほど、冷や汗が浮かんでくる。
- 音楽を作る。自分の中に構築する。 かつて、幼い頃には自然にやっていたシミュレーション。ずっと開けるのを忘れていた引き出しを、何気なく引っ張って開けたような奇妙な感覚だった。 こんなに簡単なことだったんだ。 亜夜は気抜けした。 あたしはこうする。こうしたい。こんなこともできる── ああ、こんなふうにやっていいんだ。呼吸するように当たり前に、音楽を作っていってもいいんだ。 そうストンと腑に落ちる感覚を味わい、亜夜は全身が軽くなったような気がした。 音楽には歴史としがらみもあるけれど、同時に常に更新されるべき新しさも内包している。それは自分で見つけていけばいい。誰におもねることなく、考えていけばいい。そして、自分の指で実践していけばいいのだ。 不意に、目の前が開けたような錯覚を覚えた。 舞台の上から、亜夜に向かってさあっと風が吹いてきたみたいだった。 続けていける。あたしは、これからも音楽を続けていける── そんな確信があった。
- それは、これまでにない確信だった。意気込んで「やってやる」という気負いでもなく、「そうなればいいな」という希望でもなく、ただ当たり前にそうなるという確信。 なんという安らかな感覚だろう。 なんという穏やかな心地だろう。 亜夜はその不思議な感覚をじっと嚙みしめていた。
音楽に熱心に取り組んできた妻は、涙なしでは読めないそうです。本当にオススメしたい素晴らしい一冊でした。
ちょっと前にこちらも読んでいいなぁと思ったのですが、それを上回ります。